玄牝
[10月06日17:54]映画紹介
うっそうと生い茂る大樹の枝葉から、春の陽光が射し込んでいる・・・
愛知県・岡崎市にある産婦人科、吉村医院。
木々がこんもりと生い茂る森の中にあるこの産科医院には、「自然に子を産みたい」と願う妊婦たちが、全国からやって来る。
よくしゃべり、よく笑い、よく動き、さっそうと歩く彼女たちの後ろ姿は、とても臨月を迎えた妊婦には見えない。
お産は分娩台の上でする痛くて苦しいものだと思い続けていた人、
初めての出産で経験した医療行為が辛い記憶になってしまった人、
現代医学の知識もあるけれど、自分自身は迷うことなく自然なお産を選んだという人……。
元気な彼女たちも、それぞれの思いを抱えて吉村医院に通っている。
4人目のお子さんを身ごもっている緑さんは、最初のお産を涙ながらに振り返る。
「知らないうちに陣痛促進剤を打たれて、分娩台に乗った瞬間に吸引されて、お腹を押されて……だがら、生まれた瞬間、自分が大事で、子どもを可愛いと思えなかったんです」
雨が降り続くある日の早朝、緑さんの陣痛がはじまった。夫と、お母さん、やんちゃ盛りの息子たちに見守られるなか、お産は静かに進む。生まれたばかりの赤ちゃんを抱いた緑さんの口をついて出てくるのは、ただ、「ありがとう」という言葉だ。幼い息子が、目にたまった涙を自分の袖でぬぐっている。
ある晴れた日。映画の音楽を担当するパスカルズのマツさんが、吉村医院を来訪。
庭に集っている妊婦さん達に向けて、ピアニカで音楽を奏で始める。
そばで薪割りをしていたしげ美さんは感極まって、涙がその頬をつたう。
しげ美さんは娘とふたりだけでお産に臨む予定なのだ。
見事な薪割りをする麻理さんは、お産はとても怖いイメージがあったという。
「土の匂いをかぐと癒されるんです」と日々、おばあちゃんの畑仕事の手伝いに通う。
「昔みたいなお産をするみたいですよ」と問いかけられて、
「わたしたちのときは、生まれるまで田んぼで仕事しとったから」と、応えるおばあちゃん。
ひ孫の誕生を心待ちにしている様子だ。
吉村医院を支える助産師さんたちにも、さまざまな思い、葛藤がある。
そして自然なお産に対して揺るぎない信念を持つ、吉村先生自身にも。
季節がめぐるように、命はめぐる。
様々なひとたちの思い、答えなき問いに答えるように、やがてまた新しい命が生まれる―――
イントロダクション
お産という根源的で本能的な営みを、季節ごとに表情をかえる自然の中で見つめたのは、『萌の朱雀』『殯の森』の河瀨直美。2004年に長男を出産したことを振り返って「命とはただひとつで存在するものではなく、連綿と続いてきたもの、そして続いていくもの」と語る監督自らが、16mmフィルム・カメラで撮影した。見るものの五感をひらく緻密な音響設計は、故・佐藤真、青山真治らの作品を音づくりの面から支えてきた菊池信之が担当。オーガニックで美しい音色を奏でるのは、アコースティックなオーケストラグループ、パスカルズを率いるロケット・マツ。映画は、繊細な瞬間の撮影を受け入れた女性たちの圧倒的な美しさとともに、生命の神秘のありようを映し出している。
河瀨直美
吉村正
組画、東風(配給協力)
11月6日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
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